2026年11月5日 · @小林
2026年12月から、iDeCoの掛金の上限が上がります。勤務先に企業年金がない会社員なら、月2万3,000円から月6万2,000円へ、約2.7倍です。自営業の方も、月6万8,000円から月7万5,000円になります。さらに、掛金を出せる年齢も、働き方にかかわらず70歳になるまで延びます(厚生労働省「私的年金制度、iDeCoの改正のポイント」)。
ただし、上限が上がっても、掛金が自動で増えるわけではありません。増やしたい方は、ご自身で手続きをする必要があります。
一方で、上限いっぱいまで増やすことが、誰にとっても正解とは限りません。iDeCoに入れたお金は、原則60歳まで引き出せないからです。この記事では、何が変わるのか、税金がどのくらい減るのか、増やす前に考えておきたいことを、厚生労働省と国税庁の資料をもとに解説します。
何が変わるのか
上限が大きく上がるのは、会社員の方です。働き方ごとの掛金の上限(月額)は、次のように変わります(厚生労働省「私的年金制度、iDeCoの改正のポイント」)。
| 働き方 | これまで | 2026年12月から |
|---|---|---|
| 自営業・フリーランスなど | 6万8,000円(国民年金基金などと合計) | 7万5,000円(同) |
| 会社員(勤務先に企業年金なし) | 2万3,000円 | 6万2,000円 |
| 会社員・公務員(勤務先に企業年金あり) | 2万円(企業年金と合わせて5万5,000円まで) | 企業年金と合わせて6万2,000円まで |
| 専業主婦(夫) | 2万3,000円 | 2万3,000円(変わらない) |
| 60歳以上70歳未満で、国民年金に入っていない方 | 掛金を出せない | 原則6万2,000円(新しく対象に) |
勤務先に企業年金がある方は、これまでの「月2万円まで」という枠がなくなります。会社の企業年金の掛金を差し引いた残りが、iDeCoの上限です。会社の掛金が少ない方ほど、iDeCoに出せる金額が増えます。ご自身の上限は、勤務先か、iDeCoの加入先に確認してください。
新しい上限が使えるのは、2026年12月分の掛金からです。iDeCoの掛金は翌月に引き落とされるので、実際に増えた金額が引き落とされるのは2027年1月からになります。
70歳まで続けられる人
これまでiDeCoに掛金を出せるのは、国民年金に入っている方だけでした。そのため、自営業の方や専業主婦(夫)の方は原則60歳まで、会社員の方は原則65歳までで、掛金を止めるしかありませんでした。
2026年12月からは、60歳以上70歳未満で国民年金に入っていない方も、次のどれかに当てはまれば、掛金を出し続けられます(厚生労働省「私的年金制度、iDeCoの改正のポイント」)。
- いま、iDeCoで掛金を出している方
- 掛金は止めて、iDeCoで運用だけを続けている方
- 会社の企業年金のお金を、iDeCoに移す方
どの場合も、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を、まだ受け取っていないことが条件です。また、2029年11月末までは、上の3つに当てはまらない60歳以上70歳未満の方も、新しく加入できます(老齢基礎年金を受け取っている方などは除きます)。
たとえば、こんな方が対象になります。
- 60歳で会社を退職し、その後は働かない方
- 自営業で、60歳を過ぎても仕事を続ける方
- 65歳を過ぎても、会社で働き続ける方
ここで気をつけたいのが、年金の受け取り時期です。65歳で老齢基礎年金を受け取り始めると、その時点でiDeCoの掛金は出せなくなります。70歳まで掛金を出すには、老齢基礎年金の受け取りを遅らせる(繰下げる)ことが前提になります。繰下げると年金は増えますが、その間の生活費を別に用意する必要があります。年金の受け取り方と、セットで考えてください。
数字で見るモデルケース
iDeCoの掛金は、全額が所得から差し引かれます(国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」)。企業年金のない会社員が上限まで増やすと、所得税率10%の方で、税金が年に約9万5,000円多く減ります。
前提条件
- 勤務先に企業年金がない会社員
- 掛金を月2万3,000円から、新しい上限の月6万2,000円に増やす
- 所得税率10%(復興特別所得税を含めて10.21%)、住民税10%で計算
- 課税所得が、掛金を十分に上回っている
| 年間の掛金(所得から差し引かれる額) | 減る税金の目安(年) | |
|---|---|---|
| これまでの上限(月2万3,000円) | 27万6,000円 | 約5万5,800円 |
| 新しい上限(月6万2,000円) | 74万4,000円 | 約15万400円 |
| 差 | 46万8,000円 | 約9万4,600円 |
所得税率5%の方なら、増える節税額は約7万700円、20%の方なら約14万2,400円が目安です。
ただし、裏返すと、手元から出ていくお金は年46万8,000円増えます。税金が減る分を差し引いても、約37万円が毎年、原則60歳まで使えないお金になります。この「使えなくなる金額」が家計に無理のない範囲かどうかが、掛金を決めるいちばんのポイントです。
なお、減った税金は、会社員の方は年末調整、自営業の方は確定申告で反映されます。2026年12月分の掛金は2027年1月の引き落としなので、増やした分の効果が出るのは、2027年分の税金からです。
掛金を変える手続き
掛金を増やすには、iDeCoに加入している金融機関に「掛金額の変更」を届け出ます。書面のほか、オンラインで手続きできる金融機関もあります。
押さえておきたいルールは、次の3つです(厚生労働省「私的年金制度、iDeCoの改正のポイント」)。
- 掛金は月5,000円以上、1,000円単位です。 上限いっぱいでなくても、たとえば月3万円のように、好きな金額に設定できます。
- 掛金の変更は、原則1年に1回です。 今回の改正にあわせた取り扱いもあるので、加入先の案内を確認してください。
- 給与天引きで払っている方は、会社の手続きも必要です。 個人の口座から払っている方は、ご自身の届け出だけで済みます。
12月分から増やしたい場合の締め切りは、加入先によって違います。早めに加入先の案内を確認してください。12月分に間に合わなくても、その後の月の分から増やすことができます。
勤務先に企業年金がある方は、会社の企業年金の掛金によって、ご自身の上限が変わります。金額を決める前に、上限がいくらになるかを確認しておきましょう。
増やす前に考えたいこと
上限が上がったから増やす、ではなく、「60歳まで使わないお金がいくらあるか」から掛金を決めるのがおすすめです。考えておきたいのは、次の4つです。
1. 原則60歳まで引き出せない
iDeCoのお金を受け取れるのは、原則60歳からです。60歳の時点で加入期間が10年に満たない場合は、受け取りを始められる年齢がさらに後ろにずれます(厚生労働省「私的年金制度、iDeCoの改正のポイント」)。
2. 60歳より前に使うお金は、別に確保する
急な出費に備える生活費や、教育費、住宅や車の資金など、60歳より前に使う予定のお金は、iDeCoに入れないでください。こうしたお金は、必要なときに引き出せるNISAなどで準備する方が向いています。NISAとの使い分けは、iDeCoとNISA、どちらから始めるか —— 出口まで考えて決めるで詳しく書いています。
3. 受け取るときの税金も考えておく
iDeCoは、一時金で受け取れば退職所得控除、年金で受け取れば公的年金等控除が使えます。ただし、会社の退職金も受け取る方は、受け取る順番と間隔によって税金が変わります。2026年1月からは、iDeCoの一時金を先に受け取り、あとから退職金を受け取る場合のルールが変わりました。これまでは5年空ければ控除をそれぞれ満額使えましたが、これからは10年空ける必要があります。退職金がある方は、受け取り方まで含めて計画しておくと、あとで慌てずに済みます。
4. 金額が増えるほど、値動きの影響も大きくなる
投資信託で運用している場合、掛金が増えるほど、値動きによる増減の金額も大きくなります。掛金を見直すときは、運用している商品の組み合わせも、あわせて確認しておきましょう。
FPとしてのひと言
日ごろの相談の中で感じていることを、Q&Aの形でお伝えします。
Q. 相談では、iDeCoについてどんなことをよく聞かれますか?
いちばん多いのは、「NISAとどっちがいいの?」というご質問です。私はいつも、「どちらが上ということはなく、お金を使う時期で分けて考えましょう」とお答えしています。60歳まで使わないお金はiDeCo、それより前に使うかもしれないお金はNISA。この分け方を知っておくだけで、迷いがずいぶん減ります。
Q. 今回の改正で、特に恩恵が大きいのはどんな方ですか?
50代から始める方です。これまでは、50代で始めても掛金を出せる期間が短く、「今からでは遅いのでは」とためらう方が少なくありませんでした。改正後は70歳になるまで掛金を出せるので、50歳で始めても最大20年間積み立てられます。ただし、70歳まで続けるには年金の受け取りを遅らせる必要があるので、年金の受け取り方とセットで考えてください。
Q. 逆に、上限まで増やさない方がいいのはどんな方ですか?
次のような方には、上限にこだわらず、無理のない金額をおすすめしています。
- 教育費や住宅資金が、これからかかる方: iDeCoのお金は原則60歳まで引き出せません。先に必要になるお金を確保する方が先です。
- 手元の貯金が、まだ少ない方: 急な出費があったときに、iDeCoのお金は使えません。
- 所得税がほとんどかからない方: 掛金を所得から差し引いても、減る税金が小さくなります。
- 退職金が多い方: 受け取るときに、退職金とiDeCoの一時金で非課税枠を分け合うことになり、税金がかかる場合があります。
Q. 掛金の金額は、どうやって決めていますか?
ご相談者と一緒に、次の順番で確認しています。
- 生活費の数か月分の貯金があるか
- 60歳までに使う予定のお金(教育費や住宅資金など)はいくらか
- 所得税率はいくらで、実際に税金がいくら減るか
この3つを確認したうえで、「60歳まで使わなくても困らない金額」の中から掛金を決めます。
Q. 印象に残っているご相談はありますか?
iDeCoとNISAのどちらにするか、ずっと迷っていた方がいらっしゃいました。家計を一緒に整理してみると、60歳まで使わないお金と、それより前に使うかもしれないお金が、はっきり分かれました。最終的には、金額を分けて両方を使うことにされました。「どちらか一つ」ではなく「どう分けるか」で考えると、答えが出やすくなります。
Q. 最後に、読者の方へひと言お願いします。
迷ったら、家計全体を見てから決めましょう。iDeCoの掛金だけを見て決めると、あとで「思ったより手元にお金が残らない」ということになりがちです。今回の改正をきっかけに、家計全体を一度見直してみてください。
まとめ
2026年12月から、iDeCoは「たくさん入れられて、長く続けられる」制度になります。特に、勤務先に企業年金がない会社員の方と、60歳以降も働く方にとっては、大きな変化です。
ただ、掛金は上限いっぱいにするほど良い、というものではありません。大切なのは、次の2つのバランスです。
- 税金がどのくらい減るか
- 60歳まで使えなくなるお金が、家計に無理のない金額か
「うちの場合、いくらにするのがいいのか」と迷ったら、公式LINEから気軽に聞いてください。教育費や住宅ローン、退職金の予定もふまえて、無理のない掛金を一緒に考えます。
参考にした公的資料
(2026年11月5日時点の情報です。)

